転職しそこねた話

私は日本国外で働く一人の ITエンジニアです。英語はたぶんビジネス中級レベルで、TOEIC 770点のときに日本を出て 4年半。ヨーロッパはアイルランドから、日本企業向けの日本語での対応を行っています。今日はそんな私が、つらつらと転職”しそこねた”話をします。

転職の機運

バックグラウンドをちょっとだけ話すと、日本でマスコミに入社し、ウェブエンジニアとして 3年働いてから今の会社に入りました。トラディショナルな文化の中で厳しい先輩方に育てられ、それなりに激務だったのですがそれなりに円満に退社し、次にグローバルな企業へ行きました。

次の会社では最初こそ躓いたものの、仕事を続けるうちに認められ、ヨーロッパで新規ブランチの立ち上げをすることに。アイルランドへ来たのは、そんなわけでした。アイルランドに来て、かれこれ 4年。今の会社に入ってからは実に 6年が経ち、そろそろ新しいことをやりたいなぁと思っていました。

棚卸しとアプライ

そんなわけで自分のスキルや経験を棚卸しして、転職を考えることにしました。まず、自分は日本語での説明スキルが高いと自負していたので、なるべく日本語を使う仕事に就きたいと思いました。海外ではそういった求人の数は少ないですが、逆に言えば競争率も低く、うまくいけば貴重な戦力になれます。英語も全くダメなわけじゃないので、業務での日英の必要性が半々ぐらいなら御の字かなと思っていました。

それから ITの知識や経験。まぁ、実務面から言ってエンジニアとして転職する以外の選択肢は無いでしょう。より高い年収を目指すためにも、専門性は大切です。アイルランドでビザに相当する work permit でも、学位の専門性、経験そして年収が重要ですし。

そんなわけで日々をだらだら過ごしていた私は、LinkedIn で A社の求人を見つけました。ポジションはいわゆるサポートエンジニア系の職種で、今と同じ、かつ日本語という募集要件がタイトルに入っていました(A社でもG社でも、まぁイニシャルは好きに読み替えてください)。とにかくその場でボタンを押しました。それが去年の11月頭のことです。

前提として、私は 2019年に現地でアパートメントの一部屋を購入しており、家族のためにもアイルランド(ダブリン)に引き続き在住できるような仕事を探していました。なのでこのとき見つけたポジションもダブリンオフィスの勤務でしたし、家から問題なく通える範囲のオフィスであることは事前に分かっていました。なので、その前提で以下お読みください。

インタビュー

3週間ぐらい音沙汰なかったんですが、11月末に HR からコンタクトがありました。そのあと 12月頭に HR の人と電話で会話し、その場でテクニカルな用語を理解しているか雑な質問がありました。面接というよりは足切りですね。

12月末には一回目のインタビューがありました。基本的な技術の質問の他、間違いがたくさんあるコードを読まされ、それについて修正案を提案するという内容でした。ポジション的にはいわゆる「サポートエンジニア」職であり、A社ではコードの読み書きが重要な位置づけなので、そういった面接なのでした。(ちなみにコンテナ系の質問には、dockerわからん!って嘆きながら答えました)

年末年始を挟んで、次のインタビューに進む話となり、1月に違う HR の人がアサインされました。調整の上、オンサイトということでオフィス訪問して 3人とインタビュー。これが 1月末の話ですね。2月に入って「情報が足りない」と言われてフォローアップインタビューもありました。

オンサイトインタビューですが、よく覚えているのが「年末であなた一人しか働いてないとき、一人の顧客からサービスにログインできないと苦情があった。さてどうする?」みたいなシチュエーションで延々詰められた質問ですね。最終的には、顧客にヒアリングを繰り返して問題がサービス側にあると高い確度を持てた段階で開発チームに直接連絡して(たとえ深夜だろうと祝日だろうと)たたき起こす、という形でまとめましたが、いまだに正解が分かっていません。まぁたぶん正解が無いタイプの設問なんですけど。

で、このインタビューには落ちました。3月頭に入っての連絡で、落胆したのを覚えてます。しかし他にもポジションのチャンスはあるということで、同様にポジション名に日本語が入っている違うチームを受けることに。この時の質問は、「SSHがつながらないときはどう調査するか」「RDPだったら」「負荷が高くてウェブサーバが死んでるときにどんなコマンドを使うか」みたいな、ひとつひとつは超簡単だが、選択肢が無数にあるオープンクエスチョンでした。(それ以前の面接も、まぁ概ね似たような感じでした)

で、4月に入って合格の連絡とオファーレターがきました。

決断

オファーレターを繰り返し読んだところ、残念ながら私が期待する年収とは折り合いがつかないものでした。事前にHRから口頭で説明は受けていて、そこでは「うんうん」と言っていましたが、RSU(ストックユニット)の割り当てを完全に理解しておらず、齟齬があったのです。

ここで補足すると、超当たり前ですがすべてのやりとりは英語でした。日本人はどこにも登場しません。私は「日本語話者のポジションだしグローバル企業なんだから日本人出てくるだろう」と思ってましたが、徹頭徹尾まったく出てこなくて面白かったです。何が言いたいかというと、専門的な職種ほど、たとえ面接で合格になるとしても、それは専門知識があるからであって、英語力はそんなに見ていない、です。実際、面接官の人も非ネイティブだらけで、しかも人によってかなり訛りとかスピードに違いがありました。スイスの人の英語は聞き取りやすかったけど、ダブリンの人の英語は聞き取りにくかったです。そういった違いはあると思います。

「これじゃ現職と同じじゃん」と繰り返し訴えるものの認められず、それでも新しいことに挑戦したいなぁと思って転職を決断しようと思ったのですが、幸いというかなんというか、辞める話を切り出す間際、自分の上司から違うロールをやってみないかというお誘いを頂きました。

オファーレターの有効期間は 2週間だったので、これを延期できないか先方と交渉しつつ、新しいロールにアプライし、そっちも何とか合格することができました。そんなわけでふたつのオファーを比較した結果、私は今の会社に留まりつつ新しいポジションで心機一転することにしたのでした。

しそこねた?

実際、私は転職したかったんです。新しい環境、スマートな仲間、今までと違うオフィス、楽しい環境、そういったものはいつでも青く見える芝生です。6年も同じ場所で働いて、新しい環境でまた成長したい、という思いがありました。

その手前で実は日本のスタートアップ企業からもお誘いがあったのですが、そっちはそっちで、アイルランドからフルリモートでフリーランス的に働くのが難しくて、オファーが出る前に断念したという経緯もあります。

私が今回お断りしたA社は世界でも有数の企業で、中に入れば自分よりもスマートで賢い人が死ぬほどいると思います(それは現職でも同じですが)。積み重ねてきた信頼が無いところでリトライするというのは、少し前のトレンドでいうと「転生」みたいなものだと思うんですよ。強くてニューゲームでもいいですけど。なので、転職して気持ちを新たに働いてみたいという気持ちは強くありました。

もちろん年収だけが問題ではなくって、ここに書かなかった要素も考えました。例えばアイルランドでは健康保険は民間の企業を使うのですが、A社と現職では家族での負担額が違うし病院に行ったときの補助額も違います(A社の方が手厚い)。そういったプラスがあれば、無論のことマイナスもあります。A社のビジネスが今後どうなるのかとか、コロナウィルスの状況下でベネフィットの一部が使えないけど補填されないらしいとか、いろいろ考えたんです。(後者はA社のコンペンセーションチームからすると金額換算して「うちの方がいい条件だぜ」って言ってるので付記しています。権利は権利、もらうのが前提デス)

海外転職したい人向け、必要とされるスキル

ここを読むのはたぶん私の同僚とか知り合いなので、無駄にフェイクは混ぜず、分かる人には確実に分かるように書きました。

とはいえ、海外転職したい人もここを見るかもしれないので、そういった人向けに私の雑感を書いておくと、まず専門性が第一です。例えばアイルランドではクリティカルスキルワークパーミットが一番良いビザですが、これをとれる職業はエンジニアや医療関係といった一部の職種に限られています。普通のタクシードライバーとかがガンガン移民されると仕事が溢れるので、国として当然の措置だとは思います。

なので、職種を絞り込んだ上で自分の強み弱みを分析し、足りない部分を加えていくことになるでしょう。例えば先に言ったように、エンジニアであれば言語力はそれほどでもなく、むしろ知識や経験がモノを言います。A社の場合はオープンクエスチョンばかりだったので、当然ながら英語力としては、論理だてて問題を説明する力があればいいです。英語なんて定型文で限られたものでいいですし、単語力だって IT 関係やってればほとんどカタカナです。逆に英語が強くて技術が弱いという人は、身近な強い人に本をあっせんしてもらい、数冊読んで理解すれば結構戦えると思います。(新しい技術が日夜出てくる業界なので、「学べる力」というのも、かなり評価されます)

他の仕事はわからないのですが、マーケターとかカスタマーサポートとか、そういった仕事の場合は英語力が超重要だと思いますけどね。残念ながらというか、アイルランドで日本語だけで仕事をするとなった場合、ポジションは少ないので、もしかしたら深夜勤務のコールセンターぐらいしか見つからないかも。

でも、英語力に自信が無い=英語ができない、ではないと思うので、職種や業種、ポジションを色々調べて、自分でも戦えそうな分野で戦っていく、というのが、海外で雑魚が生き抜く、ひとつの戦略ではないでしょうか。

おわりに

転職を考えてる人、今の仕事や年収に満足していない人は、ぜひトライすればいいと思うんです。そこは周りの人も相談受けたら、サポートしてあげてほしい。自分や自分のチームが迷惑を被るとしても、チームの問題かもしれないし、長期的に見ればどーせ転出してしまうでしょうから。(とか雑な言い方は各方面から怒られそうだけど)

一方で、自分が今回そうでしたが、いろんな人に相談したり、差し支えない範囲で腹を割って話すということで、新しい、今まで見えてなかった、全然違う道が拓かれることもあります。もし迷っているなら、迷っているということについて誰かに相談するべきです。それが間違っていることもあるし、正しいこともある。大事なのは自分の本心を納得させることだと思います。

客観的に見て実現可能で妥当なことと、自分が考える期待値との間には、たいてい溝があるでしょう。誰しも自分のメソッド、やり方を持っていると思いますが、私のは、色々な人と会話することで自分を客観視する、というメソッドです。ご参考になれば。

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